生物による脱臭

微生物を利用して排ガス中の臭気成分を分解処理する方法を生物脱臭法という。微生物が臭気物質を栄養源およびエネルギー源に使うために取り込むのを利用して脱臭する技術である。

反応は
臭気物質(C,H,S,P,N)+O2+無機栄養源
→微生物(増殖)+CO2+H2O
と書ける。運転コストが安く、省資源、省エネルギーで維持管理が容易である。
さらに自然現象を利用するものであり、地球環境にも優しい技術であるとされ近年注目されている脱臭技術である。
もちろん、生物脱臭が向いていない臭気物質も少なくない。

速い生分解遅い生分解非常に遅い生分解性
アルコール
アルデヒド
ケトン
エステル
エーテル
有機酸
テルペン
アミン
チオール
硫化水素
アンモニア
炭化水素
フェノール
塩化メチレン
塩化炭化水素
多環芳香族炭化水素
二硫化炭素

1.枝分かれは生分解性は悪くなる
2.塩素の数が多くなるほど生分解性は悪くなる
3.生分解性の順番は、脂肪族>芳香族>塩化物>環状炭化水素>塩化多環化合物

一般的に生分解が速いガスには生物脱臭を適用できる。
バイオフィルターなどの装置内では、担体の周囲に成長した生物膜が臭気成分を取り込み酸化分解する。
臭気ガスはまず水に溶解し、その後微生物の体内に取り込まれ酸化分解される。それゆえ、生物脱臭法では、微生物による酸化分解反応のほかに臭気成分の水への溶解も重要な過程である。

主な微生物による酸化分解反応の例は、

a.硝化菌のニトロソモナスによるアンモニアの分解
NH3+2O2→HNO3+H2O

b.イオウ酸化菌チオバチラスによる硫化水素の分解
H2S +2O2(酸素)→H2SO4

c.メチフメルカプタンの生分解反応
2CH3SH +7O2→2つH2SO4+2CO2+2H2O

d.硫化メチルの生分解反応
(CH3)2S +5O2→H2SO4 +2CO2 +2H2O

などである。

すべての微生物がすべての臭気物質を取り込めるわけではない。対象となる臭気物質を取り込む微生物を見つけて育てる必要がある。活性汚泥(単一菌体ではなく多種の菌体の集合体)がよく使わられるが、活性汚泥を懸濁した気泡塔(空気を小さな気泡として吹き込む装置)に分解したい臭気物質を少量ずつ入れ、その量をだんだん増加させながら臭気物質を分解できる菌体を育てる。

生物脱臭法の分類〜微生物の生育環境(微生物の状態と水分供給)

生物脱臭法には、土壌脱臭法(バイオフィルターに含まれることが多い)、バイオフィルター法、バイオトリックリングフィルター(散水ろ床)法、バイオスクラバー法、活性汚泥バイオリアクター法、膜バイオリアクター法などがある。
微生物に水分を供給するとともに臭気成分が分解して生成する酸化物を洗い流すために、微生物担体に散水される。脱臭塔からのドレイン排水は、必要があればpH調整したあとで放流される。バイオフィルター法、バイオトリックリングフィルター法、バイオスクラバー法は充填層式生物脱臭法に属するが、それらは微生物担体の状態と水分供給の違いにより分類されている。

 工業分野主な汚染物質処理ガス流量
(㎥/hr)
バイオフィルター化学工業
製薬工業
エタノール,ブチルアルデヒド
臭気
50,000
100,000
バイオトリックリングフィルター市排水処理場
市排水処理場
工業排水処理場
ビスコース工業
岩綿製造業
塗装工業
H2S
H2S,メルカプタン,悪臭
H2S,メルカプタン
CS2,H2S
フェノール,アンモニア
アセトン,アセテート,アルコール
800
16,300
700
51,000
12,000
1,200〜3,000
バイオスクラバー自動車塗装
化学工業
塗装工業
市排水処理場
バイオガス製造
アルコール,グリコール
ホルムアルデヒド
アルコール,アセテート
H2S,悪臭
H2S
12,000
15,000
14,000
6,000
400

上の表にあるとおり生物脱臭法は広い分野行われている。
生物による脱臭操作では、臭気成分と微生物の接触効率がよく、かつ微生物にとって良い生育環境を維持することが重要である。
微生物を含んだ液を用いる液相法と固体(担体)表面に固体化した微生物を用いる固相法に大別できる。
充填層式生物脱臭法(バイオフィルター、バイオトリックリングベッド、バイオスクラバー)の特性の比較を表にした。

特性バイオフィルターバイオトリックリングベッドバイオスクラバー
リアクターの構成単一のリアクター単一のリアクター2つのリアクター
資本及び運転コスト比較的高比較的高
担体有機物あるいは合成物合成物必要ない
リアクターのサイズ大きな接地面積が必要装置がコンパクトである装置は小さい
移動相ガス液体液体
気液比表面積
プロセス抑制限定される限定される良好
ガス流量100〜150㎥m-2h-13,000〜4,000㎥m-2h-1
運転スタートアップ,運転は容易スタートアップは比較的複雑スタートアップは比較的複雑
運転の安定性空気流れのチャネリングが起こる水の流れのチャネリングが起こる安定性が高い
圧力損失中程度〜高い中程度〜高い低い
目標となる成分濃度<1gm-3<0.5gm-3<5gm-3
適用できる物質のヘンリー定数,H<1<0.1<0.01
栄養源加えられない加えて制御できる加えて制御できる
バイオマス固定化固定化懸濁
充填物の目詰まり目詰まりが起こる目詰まりが起こる目詰まりが起こらない
余剰スラッジ問題にならない余剰汚濁の廃棄が必要余剰汚濁の廃棄が必要

バイオフィルター

土壌脱臭法
土壌脱臭法はバイオフィルターの一種である。
土壌あるいは改質土壌に臭気を通し、土壌中の微生物により臭気物質を分解する方法で、古くから実用化されてきた。一般的に、比較的臭気濃度が低い場合に適用される。
送風機により臭気ガスを土壌層下部に設置した主風道に送り込む。主風道から枝分かれした支風管を通り、砕石や玉石の層、砂層を通過し土壌層に拡散していく。土壌層をゆっくりと通過する際に臭気物質が土壌中の微生物により分散される。乾燥期には、土壌が乾燥して微生物が死滅しないように土壌層の表面にスプリンクラーなどで散水する。
臭気成分は土壌粒子に吸着あるいは土壌水分に溶解して土壌中に保持され、土壌中の微生物により無臭な成分に分解される。たとえば、家畜糞尿処理の堆肥化施設で発生するアンモニアは土壌水分に溶解して土壌中に保持されたのち、好気的条件下(酸素がある状態)において硝化菌などの微生物により亜硝酸や硫酸に変えられる。嫌気的条件下(酸素がない状態)では脱窒菌により硝酸、亜硫酸は窒素ガスに変えられ、無臭なガスとして大気に放出される。これらの菌が生育に適した条件は、温度は約25℃、水分は約60%、pHは7〜8といわれている。土壌脱臭法において土壌の状態の管理は重要である。

充填層式バイオフィルター

充填層式バイオフィルターは、高い気液表面積を持ち水分量が少ないため、水溶性の低い(ヘンリー定数がH<10)物質の処理に適している。層高さは一般的に0.8〜1.2mである。 バイオフィルターには開放型と閉鎖型がある。 生物脱臭においては、生物を保持する担体(充填材)が重要である。微生物を付着させる担体として、天然物で生物活性のある土壌、ピート(泥炭)、コンポスト、樹皮など、あるいは生物活性のない活性炭、セラミックス、焼結ガラス、溶岩、ポリウレタンフォーム、バーミキュライト(蛭石)、パーライト(真珠岩)が用いられる。

バイオトリックリングベッド

排ガスは、微生物が付着した不活性の担体が充填されている層内を循環液(微生物の栄養源を含む)に対して並流あるいは向流に流される。並流と向流については、向流が良いといわれるが、まだどちらが有利かははっきりしていない。定期的に排ガスの流れ方向を変えるスイング操作も提案されている。バイオフィルターとは異なり、バイオトリックリングベッドでは液が常に充填層に流れている。

バイオスクラバー

ガス相の臭気物質はスクラバー塔において循環液に吸収される。臭気物質を溶解した液は微生物(活性汚泥がよく使われる)が懸濁したバイオリアクター(酸化リアクター)に入り、そこで臭気物質分解処理される。微生物の成長と活性を維持するために栄養源の添加とpHの制御が行われる。余剰汚泥は連続的に抜き出される。なお、既設の活性汚泥排水処理施設があり、その曝気量(空気吹き込み量)より脱臭ガス流量が小さい場合は、活性汚泥曝気脱臭法の方が有利である。また、バイオスクラバーに使われる吸収塔には典型的な条件がある。

オゾン脱臭法

オゾン脱臭法は気体のオゾンを利用した脱臭法である。
詳しくは「オゾンとオゾン水」をご覧いただきたい。

活性汚泥曝気法

活性汚泥法は排水処理として広く利用されている。
この排水処理は好気的微生物処理であり、排水中に含まれている有機物などが汚泥中に含まれる微生物の栄養源そしてエネルギー源として取り込まれることにより排水が浄化される。この処理が行われるリアクターが曝気槽であり、酸素を微生物に供給するために空気が吹き込まれる。この曝気空気の代わりに臭気物質を含む排ガスを吹き込む方法である。
排水処理と同時に脱臭処理を行うプロセスである。

生物脱臭の性能評価〜脱臭容量と脱臭効率

生物脱臭法の性能評価には、脱臭効率(RE)の他に単位リアクター体積当たりの処理量と定義される脱臭容量(EC)が使われる。
処理負荷(単位リアクター体積当たりの臭気物質入量)が増加すると、脱臭容量は低下し100%の脱臭効率が達成できなくなる。